18

18

ju-hachi

2020/2/22 マノン[新国立劇場バレエ団] 感想

新国立のケネス・マクミラン版マノンを観てきました。
 
マノンが米沢唯さん、デ・グリューがワディム・ムンタギロフです。
新国立劇場バレエ団にはロメオとジュリエットに続き、また泣かされてしまいました。
 
キャスト(クリックで拡大)

casts

 

 
なんといってもこの公演はワディム・ムンタギロフのおかげでとんでもなく素晴らしい公演になったと思います。
彼なくしてはこの感動はなかったと思います。
この状況の中、日本に来てくれて本当にありがとう…!
 
これまで見た彼の印象としては、ノーブルな王子様が似合うよね、としか思っていませんでした。
バジル役で見ても、どこか行儀がよくて王子っぽいくらい。
でも、この公演では全くその印象が覆されました。
まさかここまでの熱演を見せてくれようとは。
 
まず見た目からして完璧に、物語からそのまま出てきたかのようなデ・グリュー。
そして、踊り出すと王子様然したムンタギロフから想像できなかったほど、溢れる感情がそのまま、パの一つ一つに込められて語りかけてくるようでした。
マノンに対するとてもとても激しい愛情を感じられます。
演技自体は大げさでなく自然なのですが、特に、2幕でマノンに戻るよう迫る場面なんかとても切なくて切なくて…
マノンへの一心で盲目な愛が伝わる彼の踊りや演技のおかげで、この物語に強力な説得力が出たと思いました。
 
 
 
米沢唯さんはマノンを演じるのは初めて、ということでしたが、役作りが面白いと感じました。
 
1幕のマノン、何も知らない精神年齢低めの子供のような無垢さで、コートをかけられたりしたシーンでも「きらきらですべすべでだいすき!」とでも言いそうな、ただただ幼い感じに見えました。
ムッシューG.M.とレスコーとのパ・ド・トロワのシーンでも、私にはムッシューG.M.の反応がおもしろくてからかっている、といった感じにも思えました。
 
そして、意外にもそれは2幕でもそのままで、強かだったり腹黒だったり、欲に溺れたような感じはせず、人々に流されるがまま、単純さや純粋さのようなものがそのまま失われていないように見えました。
 
俗っぽく言ってしまえばなんだか頭カラッポという感じにも見えました。
自覚なく天然で人を誑かす悪女ってこういう感じなんでしょうか。
 
個人的にはリアリティに欠けるように思えて、あまり納得できるキャラクターには感じられなかったのですが、これはこれで面白いと思いました。
米沢唯さんぐらいのピュアさがないとなかなかこんな風に感じられることもないように思いました。
 
 
一方で、3幕の米沢唯マノンは1、2幕までの物語全てを私から持って行ってしまいました。
 
登場した時からもうボロボロ、細い脚がとても痛々しく見える程米沢唯マノンは、もうあまりにも悲惨で、悲劇の固まりみたいな様子だったので、今までの彼女がやってきた自業自得とも思える所業の物語の全てが頭から消え去ってしまって、マノンにどうしても同情してしまいました。
 
雰囲気、2019年のニューイヤー・バレエでの火の鳥で見た彼女を思い出しました。
あれも彼女の踊り、すばらしかったなと。(演目の内容としては好みではありませんでしたが…)
 
 
沼地のパ・ド・ドゥはこの一瞬をマノンとして生き切るが如き米沢マノンを、涙なくしては観ることができませんでした。
 
米沢さんは、普段はパ・ド・ドゥを踊っていても相手に預けるような感じがあまりない、というか、彼女一人で自立している(自立できちゃう)所があるように思うのですが、この時は、あの米沢さんが全く自立できないように見えました。 
あの米沢さんが。
 
そして、高難度のダイブだったり、リフトが繰り返されるパ・ド・ドゥでは、ギリギリ限界まで相手に預けるような動きを見せて、もはや相手をほとんどみずに飛び込んですらいたと思います。
 
それが実現できたのも、観客にすら一部の不安も与えないムンタギロフのサポート力のお陰だと思いますし、2人の盤石の技術があるからこそで、もう、本当にこのパ・ド・ドゥでは胸が熱くなりました。
圧巻のパフォーマンスでした。
 
 
バレエ団全体的には初日ということもあり、少しかたいような印象でした。
徐々にそのかたさも取れて少しずつ熱量が増していきましたが、それでも、いつもの新国立バレエ団の公演よりも、主役以外の印象は薄く、パが馴染んでいないような、振り回されているような感じに見えるように思いました。
 
もっと後の上演回になったらこなれてきてるかもしれないですね。
 
 
木下嘉人さんのレスコーは若々しく軽妙で、演技がよかったように思いました。
1幕ラストのデ・グリューとの2人のパがムンタギロフの演技との相乗効果もあったかもしれませんが、迫るものがありました。
ただ、酔っぱらって踊る場面は、綺麗に踊れすぎていて正気っぽい感じに見えてしまいました。
 
レスコーと愛人のパ・ド・ドゥも息があっていてよかったと思います。
レスコーの愛人を演じた木村優里さんは、ロメオとジュリエットの時も思いましたが、こういうドラマティックな演目はやはり合っていると思います。
 
華やかで、決して自分を安売りしない強かさのある娼婦を良く演じてたと思いました。
しかし、あまりに表情豊かすぎるというか、どこか"高級"娼婦感には欠けるように思いました。
 
次は彼女のマノンを観てみたいな…ぜひ。

 

time table