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ju-hachi

2020/2/26 マノン[新国立劇場バレエ団] 感想

新国立マクミラン版マノン、別キャストで鑑賞2回目です。
マノンは小野絢子さん、デ・グリューは福岡雄大さんです。
 
 
波乱の舞台でした。
新型コロナウイルスの影響でこれより後の公演は全キャンセル。
突然の千秋楽、小野マノンはこの日のみになってしまいました。
 

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私は会場についてから知りましたが、会場の様子から、慌てて今日の公演を見にきた人も多かったように思えました。
 

さらに、なかなか開演しないと思ったら、寺田亜沙子さんの怪我降板のお知らせが。

よっぽど直前のことだったのか、準備のためということで20分ほど遅れて開演しました。
急きょ、木村優里さんがレスコーの愛人役に入りということで、幕があがりました。

 

 

 

キャスト(クリックで拡大)

casts

 
 
小野マノンの説得力があり、厚みのある役作りがとてもよかったです。
先日の米沢マノンに比べると、小野マノンはあどけなさの欠片もなく、計算高く完全に自分の価値を理解しているように見えました。
彼女のマノンは瞳がとても印象的でした。
このマノンの世界で欲情の対象は脚だと思うのですが、愛情は相手の瞳に向けられるのでしょうか。
1幕の寝室パ・ド・ドゥ、小野マノン、福岡デ・グリューとずっと見つめ合いっぱなしで、こんなに喜び溢れ、感情剥き出しに見える小野絢子はみたことがない、というくらい輝くばかりで、この時点で涙が出てしまいました。
 
しかし、その後、ムッシューからの美しいコートや宝石を贈られたマノンは、先ほどまでと打って変わった、瞳の色を変えるとはこのこと、という感じでうっとりと見つめます。
そして、レスコーに耳打ちされ、アイツを何とかすれば手に入るのね、といった目線をレスコーとともにムッシューに送るのですが、それがつい先ほどまでデ・グリューと愛しあって、見つめ合っていた時の瞳とは全く違う、獲物を狙うような、金に取り憑かれてしまったような瞳で、そのあまり変わりようにゾッとしました。
マノンが自分の魅力に気づき、妖艶で魅力的にどんどん変貌していく様がわかる上、その変化も全く違和感がありませんでした。
 
1幕ラストでは毛皮コートをこれまで常に着ていたとも思えるような、高貴さまで漂わせ、2幕は登場から、マノン…あなた、変わっちゃったのね…と言ってしまうような雰囲気を醸し出し、グリューとのパ・ド・ドゥも、愛情は感じるけれど1幕とは何か違う…と感じさせました。
 
 
小野マノンは、デ・グリューと会ってしまったことで運命を狂わされてしまったとのだ、強く思えました。
彼女は自分の意志で選んでこの世界で成功したプライドを持っており、2幕の腕輪をデ・グリューに手放すように求められるシーンも己の才覚で自力で手に入れたものを捨てることが耐え難い、という様子に見えました。
自力で手に入れた何もかも全てを捨てるように懇願されて、愛故にそれを受け入れてしまい、全て捨てて抜け殻のようにボロボロになって、それでもなおデ・グリューにすがるようについて行ってしまう…
小野マノンは、もはやデ・グリューに殺されてしまったようにすら見え、私にはデ・グリューが憎らしくさえ思えてしまいました。
 
 
福岡さんのデ・グリューを見て思ったのは、マクミランの振り付けと、この演目の難しさでした。
振りを踊れていることは間違いありませんし、安定感はあったのですが、どの場面でもどうもしっくりきません。
感情が伴っていないといいますか、何かが物足りませんでした。
ムンタギロフの時は、あれだけ一つ一つのパが語ってくるようだったのですが、福岡デ・グリューからは何も伝わってこないように思いました。
あの理想のデ・グリューを見てしまった後だと分が悪かったですね…。
2幕の、マノンと腕輪のことで争うシーンでは、小野マノンと互いに会話が聞こえるようでしたし、3幕はましだった気がしますが…
 
3幕は米沢&ムンタギロフ程の感動は得られませんでした。
むしろこのペアが圧倒的過ぎたのだと思いますが…。
そもそも、この演目の踊りは米沢唯さん向きだったと思います。
 
 
主役2人以外は、初日に見た時よりもやはり多少こなれた印象でした。
物乞いのリーダーはジャンプがキレキレ、と思ったら速水渉悟さんでした。
やはり彼の跳躍は胸がすくようです。
高級娼婦2人が蹴ったりするシーン、渡辺与布さん 、池田理沙子さん(池田さんの方が蹴りを入れる側だったですかね?)だったと思うのですが、息があっていて初日より印象的でした。
 
渡邊さんのレスコーは酔っ払いの踊りのシーンは迫力がありました。
しかし、演技は木下さんのレスコーの方がよかったと思いますし、全体的にチンピラになりきれなかったような感じというか、ノーブルさが拭えませんでした。
彼の方がデ・グリューはお似合いだったのでは。
 
当初予定ペアでは無かったはずなので、ほぼ、ぶっつけ本番ではないかと思われる渡邊レスコーと木村愛人のパ・ド・ドゥはちゃんと笑いをとっていて、息もあっていました。
この日、急遽愛人を演じた木村さんは、1幕からとても安心できる気合いの入りっぷりでした。
ニューイヤー・バレエの失敗した場面でも思いましたが、逆境で強くなれるタイプなんでしょうか。
 
一つ一つのパごとにくるくる表情が変わり、初日より艶やかで大変良かったです。
 
 
このペア、たった1日の上演だけとは…本当に残念でした。
 
なるべく早く再演を願います。
 
 
開演前に小野絢子さん監修のスイーツ、”デ・グリューの愛の詩 (Act1のソロより)~カルヴァドス風味のサバラン”、800円を食べました。
 
お酒がたっぷり、びしゃびしゃに染みていて、フォークで切る度にじゅわっと出てくる程。
 
とてもおいしかったです。
 

cake