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ju-hachi

2021/1/11 ニューイヤー・バレエ[新国立劇場バレエ団](オンライン配信) 感想

公演関係者の新型コロナウイルス感染ということで、中止になってしまった新国立バレエのニューイヤー・バレエ…

私は10日、11日の公演のチケットを持っていて、公演中止に非常に落胆していたところ、なんと嬉しいことにオンライン配信を、しかも無料でやってくれると。

なんという神対応でしょうか。

 

 

キャスト

cast

 

 

 

配信初めには吉田都監督のご挨拶がありました。

「公演が中止になり、ご迷惑をかけて…」というようなお詫びをされていましたが、お詫びしなくていいよ…!都さんもバレエ団の方も、全然悪くないです…。

 また、「ペンギン・カフェ」では本来は舞台上のダンサーが声を出すシーンがあるが、今回は安全に配慮した形で別のダンサーたちが声を出しています、というような説明もありました。

 

ご挨拶後、いよいよ公演開始です。

普段はあまり観れないオケピもドアップで見られて、少しだけ得した感じでした。

あと、配信でも、オーケストラのチューニングが始まると、自然と集中力が高まる気がしました…。

 

 

第1部は「パキータ」。

私だけだと思うのですが、もうダンサーが踊ってるだけでなんだか泣けてきちゃいました…。

 

こういう、ストーリーが薄くて純粋に踊りを見せるクラシックな踊りについては米沢唯さんは本当に抜群だな、と思いました。

エトワールのヴァリエーション、あれだけのスローテンポで全く危なげのない踊り、素晴らしかったです。

ポー・ド・ブラと上体の動き、やっぱり以前にも増して進化していると思いました。

ラストのフェッテも当たり前のように余裕のトリプル。

高速のシェネもオーケストラの音楽とマッチして最高に盛り上がりました。

 

渡邊さんは、最近見ていた舞台では結構不調に思うことが多く、今回もソロで最初踊り始めた時はちょっと不安そうに見えて、こちらも不安になってしまい…心の中でめちゃくちゃ応援しながら見てしまいました。

でも、跳躍、回転からのポーズも決まっていたし、ラストのコーダもノリノリというか、楽しそうに踊っているように見えて、少し安心しました。

 

贅沢な、速水さん・池田さん・柴山さんのパ・ド・トロワ、これもとても良かった。

速水さんはジャンプ力が画面越しでもわかる空中浮遊っぷり。

ジャンプ・回転・ジャンプ・回転の連続スゴ技もばっちりきまっていました。

今回、これだけのスゴ技がノーブルで、これ見よがしにならないのが彼のすごいところなんじゃないかと思いました。

池田さんのソロも、回転が決まっていて、柴山さんの足技、ポアントキープ力も素晴らしかったです。

 

他のヴァリエーションは、特に細田さんと奥田さんがステキだなーと思いました。

細田さんのあのめちゃ長いヴァリエーション、あれだけ優雅に踊るのすごく大変だろう…。

奥田さんはジャンプからの回転、大技キメキメでした。

 

上品で、優雅で、格調高い、新国立の特色が存分に観られた作品だったと思いました。

 

 

休憩をはさんで第2部、木下嘉人さん振り付けの「Contact」。

とても良かったのに、短くって残念…!もっと見ていたかったです。

なんとなく雰囲気がフィギュアスケートの作品のようにも思えました。

 

ダンサーは振り付けしたご本人の木下さんと、小野さん。

小野さんの淡いピンクで裾が白いドレスの衣装がとっても素敵でした。

木下さんが腕で作った丸い輪を、小野さんがくぐり抜けるように壊す、という動作が多用され、触れ合えそうで触れられない、一体になれそうでなれない、切ない男女のすれ違いを描いた作品のようでした。

すごく派手な動きがあるわけではありませんが、優雅で無理のない動きの連続がとても美しい作品でした。

あと、ずっと木下さんを見つめる小野さんにキュンキュンしてしまいました。

 

 

続いて、深川秀夫氏振り付けの「ソワレ・ド・バレエ」。

これも良かった、初見でしたが作品の雰囲気も素敵でした。

星降る夜空の背景に、紫色のお衣装がメルヘンチックでかわいかったです。

ダンサーは池田さんと中家さんという何とも珍しいペア。

この女性の踊り、池田さんのようなポアント技術がしっかりしたダンサーだと映えますね。池田さんにピッタリ。

つま先立ちの状態のままゆっくりと回転するパがとても多かったですが、全く危なげなかった。

背景の夜空の星々と同じように、池田さんがキラキラして見えました。

男性は、ちょっと活躍シーン少な目な感じのパ・ド・ドゥでしたが、中家さんも相変わらずボディコントロールが素晴らしかったです。

 

 

2部最後は貝川鐵夫さん振り付けの「カンパネラ」。

福岡さんの踊り。

ダンサーは半裸+スカートのような長い丈の布を巻いた衣装で、音楽はピアノだけ。

リストの音楽にのせて、指先にも細かい動きのある、かなり激しい振り付けの踊りです。

リストの音楽をそのまま振りにしてみた、という感じに思えます。

何かを追いかけたり、追い払ったり、振り払う、といった動作が作中たくさん見受けられました。

渾身の踊りで音楽とも一体感がありましたし、決して悪くはなかったのですが、やっぱり画面越しでなく、生で、空気感も感じながら見てみたかったかな、と思いました。

 

 

再び休憩をはさみ、ラスト第3部はビントレーの「ペンギン・カフェ」です。

今回のニューイヤー・バレエで一番楽しみにしていた作品で、とても楽しく、かつ深い作品でした。

人間による環境破壊などをテーマにした作品ということで、可愛い動物達に誘われて行くと、最後は後ろからグサッとやられる感じでした。

 

ミニマルミュージックのような、そうでないような音楽が全編にわたって使用されていて、この音楽がとても素敵でした。

 

冒頭はウェイター姿でグラスの乗ったお盆を持ったペンギンがくるくるとキュートな踊りを見せます。

常にスキップしているみたいな感じでかわいい。

このペンギンちゃん、めちゃくちゃキーホルダー化してほしいと思いました。絶対買う。

氷河のような背景がありますが、音楽はどこか南国っぽさのある温かい感じです。

 

場面は移り、社交場的な場面へ。

ペンギンと、ドレスの女性が社交ダンス風の踊りを踊ります。

そこに、米沢唯さんのユタのオオツノヒツジが登場、社交界の女王、といったところでしょうか。

頭はがっつり被り物、キラキラのドレスにヒールで踊る。

井澤さん含め、被り物なし、タキシードの男性5人が、ヒツジの後ろで千手観音の手のようになったり、おばけみたいな手でジャンプしたり、コミカルな踊りを見せます。

途中、ヒツジのスカートが裾からぐるぐるぐるっと取れて、短いスカートの衣装に早変わりするなど、おもしろかったです。

その後、井澤さんと米沢さんのデュオの踊り、井澤さんが楽しそうに踊っていたのが印象的でした。

 

場面は変わり、サボテンを背景にテキサスのハンガリーネズミの踊りに移り変わります。

お祭りみたいな曲で、踊りも何となく盆踊りじゃないけど、お祭りっぽいイメージの振り付けのように見えました。

脇や足を掻くしぐさが入っている場面もあったり、コミカルな動きですが、ほとんど両足で立っているような時間がなく、ずっと動き続ける、細かいステップ続き、これ、絶対きついやつ…。

ソロなのに曲も長くて、本当に見てるだけでつらくなってきてしまいます。

踊りきった福田さん、素晴らしかったです。

 

続いて豚鼻スカンクにつくノミ、五月女さんがノミ役です。

最初、ノミじゃなくてアリか?と思ってしまいましたが、ちょっと宇宙人とかっぽいような衣装で、ポアントでの軽やかな可愛らしい踊りでした。

"ノミ"から勝手に想像していたような踊りとは全く違った可愛らしい感じでした。

ここの踊りの部分で、冒頭、吉田監督が言っていた声を出すシーンがありました。

 

続いてはケープヤマシマウマ。

モヒカン姿、手にはたき?のようなものを持ったシマウマ、これは被り物じゃなくメイクのようです。

見ただけでは演者がさっぱりわかりませんでしたが、奥村さんでした。素晴らしい肉体美…。

このシマウマの他に、ヒールの女性たちがランウェイを歩くモデルのように颯爽と登場し、ポーズを決め、無機質に規則的に手を動かしたりします。

彼女たち、ゼブラガールって呼ばれているようなのを見ましたが、ゼブラガールの中には米沢さんがいてびっくり。

パキータ、ヒツジ、ゼブラガール、と、大活躍ですね…。

このゼブラガールたち、シマウマ柄のスカートを身に付けています。

もしかして、それ、シマウマの毛皮?…と、思っていたら、このシーンのラスト、シマウマが、おそらく銃に撃たれ、痙攣して死んでしまうシーンが描かれます。

その痙攣の様子までどこか美しいのですが…

死んでしまったシマウマにもとことん無関心な、傲慢な人間の様子が描かれています。

 

続いて熱帯雨林の家族の場面。

温かな家族愛と、他に同族がいないところにいる孤独感、子の行く末を案じるような、悲哀を感じさせられました。

 

登場する最後の動物はブラジルのウーリーモンキー。

ハデハデ金ピカの帽子でサーカスの座長のようです。

誰かと思ったら福岡さんでした。軽やかなステップで盛り上げ上手です。

後から登場する女性たちも可愛い衣装で、さながらカーニバルのように。

これまで登場した動物たちも参加して、楽し気なダンスを繰り広げます。

 

が、その後、楽しそうな様子は一転。

曲調がかわると、何か不安そうな様子で動物の被り物をダンサーたちが外します。

そして、数匹の動物たちが次々と倒れ出し、やがて動物たちは逃げ惑いはじめます。

動物たちが舞台からいなくなるとペンギンがどこか嬉しそうに踊りだし…やがて雷鳴が鳴り、雨が降り出す。

どうやらこの雨、酸性雨ということらしい。

 

雨の中、被り物をはずした動物たちは舞台上を行き交い、弱ったような様子のものもいれば、より激しく動き回る様子のものもいます。

(ここの中の踊り、福岡さんと五月女さんのコンビ、身体能力がすごかった。)

 

ここからは完全に私感ですが、被り物をはずした彼ら、"動物"ではなく…そもそも"人間"だったのかもしれません。

この場面、絶滅の危機に瀕した動物たちの被り物などをして呑気に楽しんでいた人間達が、自分たちのせいで滅びに向かってゆく世界で、逃げ回るしかない、そんな様子に思えました。

そんな"人間"達の後方で、ペンギンはただその様子を眺めるようにたたずんでいます。

ラスト、"人間"達は不安な面持ちで”ノアの箱舟”に乗り込みます。

その舟に、ペンギンは乗りません。ただ箱舟を見つめます。

後から調べてわかりましたが、このペンギン(オオウミガラス)、既に絶滅してしまっているようです。しかも人間の乱獲のせいで。

生き残れるかもしれない、わずかなような希望に賭ける人間と、既にその希望が失われてしまったペンギンがそれを見つめるという…なんとも皮肉?な物語に思えました。

 原題の「Still life at penguin cafe」、"still life"は、「静物」とか、「静物画」とか、そういう意味ですが、「まだ、生きているもの」、とかそういう意味もあったりするんでしょうか。

まだ、生きている私たち、今後どうなるか、生き残れるのか…。

随分前の作品のはずなのに、環境破壊の状況は悪化する一方、さらに、パンデミックで揺れるこの世界…人間の行く末を考えさせられる作品でした。

 

 

充実した公演で、本当に、見ることができてよかったです。

オペラグラスなしでダンサーの表情も見える、というのは配信の良いところですね。

もちろん「そこはアップにしないでほしかった…!」と思うところもありましたが…。

あと、本当だったら万雷の拍手だったろうに、それがないのはやっぱり寂しかった。

 

ペンギン・カフェ」の時、Youtubeの視聴者数は実に28000人を突破したタイミングもあって、劇場のキャパを考えると、すごい人数が視聴していたと思います。

これだけの人とこの感動を共有できたというのは喜ばしい、と思う反面、やはりこんな素晴らしい公演を中止せざるを得なかった、生で見ることができなかったという悔しさもこみ上げました。