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2021/10/30・11/3 白鳥の湖[新国立劇場バレエ団] 感想

新国立のピーター・ライト版白鳥の湖を観てきました。公演3回分、やっと感想をまとめました…遅すぎ…

 

緊急事態宣言などが全く出ていない状態の久しぶりの公演だったかと思うのですが、満席に近い状態の劇場で(Z席も販売されていたかも)、万雷の拍手が聞けて、トイレも大行列、11月2日、3日の公演では、外ではありますが、飲食スペースも試行で復活していて、少しずつ劇場の日常が戻って来た気がして嬉しかったです。

 

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本来であれば2020年の吉田都監督シーズン最初を飾るはずだったピーター・ライト版の白鳥の湖、さらに開幕直前に、柴山さんのケガ、速水さんのケガ、牧阿佐美氏の訃報…と、関係者の皆さんには数々の想定外の出来事があったものかと思いますが、無事にこの素晴らしい公演が上演されて本当によかったです。

(柴山さんは、見事主役を踊ってらして安心しました。速水さんのケガがあまり深刻でないことを祈っております…。)

 

 

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シーズン開幕のこの演目、3キャスト見てみまして、あまりに小野さんと米沢さんが突出して良すぎまして…この素晴らしい2大プリンシパルの後進を直近で育てることができるのかどうか、というのが、今後の新国立にとって非常に重要であり、大変難しい点ではないかという思いに改めて駆られました…

(そういう点、他にも事情はあるでしょうが東バの方が比較的上手な気がするんですよね…)

もちろん、既に主役を背負うダンサーたちがらっしゃるわけですが、今回、新人で抜擢された方が何人かいらっしゃったように、ぜひ今後もそうやって次世代を負う人々の育成をバリバリ進めていっていただきたいものです…

 

ピーター・ライト版白鳥メモ

・序曲のラストあたりで幕が上がり、国王のお葬式シーン。棺が先頭、すぐ後ろにジークフリート王子と、支えられながら嘆き歩く王妃を含めた行列の様子。(舞台がかなり暗くて最初は何が何だかわからなかった。)

・1幕、ベンノの衣装が白、王子が黒(喪中だから?)。序曲のお葬式シーンの後、お城の中庭のシーンに変わって最初に登場するのがベンノなのだけれど、観た回では全て彼の登場で拍手が…ベンノの最初の衣装が白いから、もしかして王子と勘違いしている人もいたのでは…初っ端の群舞のフォーメーションがかなりユニークで見ごたえがあると思いました。

・ふさぎ込んでいる王子を励まそうとするベンノが開いたパーティーの最中に王妃登場。王妃激怒。結婚して王位を引きつげと迫る王妃。お見合い用?のお姫様の肖像画の書かれた本?を見せられて困惑する王子。

・パ・ド・トロワ男性はベンノが踊る。女性はクルティザンヌという役名だが、高級娼婦のことらしい。パ・ド・トロワの一連の踊りの中に王子とクルティザンヌが踊る部分や王子のソロも挿入。王子の塞いだ心情をよく表している。パ・ド・トロワ後に重厚な衣装で踊られる男性群舞がとても見ごたえあって素敵。

・1幕と2幕の間は休憩なしで幕が下り、チューニングの時間あり。ちょっと気まずい。

・2幕明け、ロットバルト男爵登場。鳥型?の兜を被っている。踊るシーンは舞台通してほぼ無し。魔術?で王子を惑わすシーンあり。

・2幕のセットは割とシンプルで、周りに木々、舞台奥に光る湖が見える。

・白鳥の娘たちは、もとはみんなお姫様たちという設定らしい?4羽の白鳥の踊りの顔の付け方が独特に感じた。最初は左から右に顔を回す感じ。

・3幕、セットや衣装が赤とゴールドと黒が印象的な感じ。ベンノも王子も衣装は黒。舞台後方にずっと灰色の衣装の修道女?のような2人がいるが何なのかわからない…

・3幕はポーランドハンガリー、イタリア王女がそれぞれトランペットの音とともに登場し、各国大使団の踊り→王女のソロヴァリエーションという順番で踊りを披露し、王子にアピール。このつくりがうまい。ハンガリー王女はポーランド王女を睨んだり、といった役作り。

・各国の踊りは他の版と同じディベルティスマンの曲。ポーランド王女のソロの曲が不明、ハンガリー王女は他の版だとロットバルトが踊るときの曲(王女の衣装、頭に羽飾りがあるのはロットバルト意識してのことだろうか?)、イタリア王女はチャイコフスキーパ・ド・ドゥの女性ヴァリエーションの曲(テンポ遅め)。きっとポーランド王女の曲もチャイコフスキーの何かなんだろうけど…。ナポリ大使団男性の衣装がキラキラで印象的。

・スペインの王女?としてオディール登場。ロットバルト男爵が兜なしで不気味なメイクで一団を引きつれる。(スペインの踊りの人々の衣装は黒なのだが…男性の衣装の被り物がどう見てもミッ●ーマウスだった…あれはいったい何…化粧の口紅も黒かったと思う。)

・王子がオディールに愛を誓ってしまった後、発砲音とともにロットバルト達は消える。兵士?が入口付近で倒れている。

・4幕、幕が上がると舞台上にスモークが立ち込めていて、床に寝ていた白鳥たちが立ち上がって姿を現す。とても美しい光景で観た回全て会場からも拍手。黒鳥は混じらず、白鳥のみの群舞。後、オデットと王子のパ・ド・ドゥ。オディールが王子を許している様子…かな?オデットと王子を何度も引き離そうとするロットバルト男爵…。

・オデットが湖に身を投げた後、王子はロットバルトと争った末、ロットバルトの兜をはぎ取って自身も命を絶つ。兜を取られたロットバルトは丸坊主、白塗り、目の周り、口の周りが黒くて結構ホラー…。固まってパドブレをする白鳥の娘たちに詰め寄られてロットバルトは丸まって舞台端に。

・駆け付けたベンノが、自身のマントで顔を覆った王子の亡骸を抱きかかえ、オデットと王子が空の彼方?で幸せな様子でいる、というシーンで幕。


王子にスポットを当ててわかりやすいストーリーとなっており、大変よくできた素晴らしいプロダクションでした。

物語の運びがとても自然で、お葬式のシーンから始まる、というのも良かったですし、王子の友人のベンノという役があることで、パ・ド・トロワも単なるディベルティスマンではなくなってラストのシーンも印象的、3幕の各国の踊りもこの構成だと単なるディベルティスマンではなく背景の物語を感じながら見られて、よくできてるなぁと思いながら見ました。

4幕も、黒鳥が混じるのがいつも何となく違和感で…今回の白鳥だけの群舞というのが個人的にツボでした。また、2幕4幕の群舞の美しさはひとしおで…これは絶対一度は上の階から見ていただくことをお勧めしたいです。本家より人数を増強してあるそうなのですが、さすがの迫力でした。

個人的に惜しむらくは、ややロットバルトの印象が薄めだったことでしょうか…。魔法?も派手な演出があるわけでもないし、何といっても踊らない、というのが残念でした。(せっかく中家さんがキャストされているというのに…)

 

舞台装置や衣装がはダークな色合い、かつゴシック調なつくりで、これまたとても良かったです。

特に城の人々や各国の人々の衣装は、どの場面も暗い印象の色遣いでしたがとても重厚で、何度見ても美しいなぁと思いました。各国の姫たちの髪飾りもゴージャス。

 

以下、各日の感想。

 

■ 2021/10/30 13:00 米沢さん / 福岡さん

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米沢さん、福岡さんのペアは私個人的には新国バレエ団の踊り的ベストコンビの2人です。小野さんと福岡さんコンビの良さももちろんわかるのですが、ずっっっとこの2人が組んだら踊り的に最強だろうなぁと思っていたんですよね。やはり踊りがすごく良かったです。

福岡さんの2幕ソロの拍手はなかなか鳴りやまず。リフトも高く、米沢さんがぎりぎりまで相手に預けて踊っているような感じがするパ・ド・ドゥが見れて満足でした。

米沢さんの踊りがまた絶品でした…特にオディールの時なんて、ヴァリエーションではほとんどのアチチュードターンをダブルで回ってピタっとポーズ、フェッテも当然のように3回転を入れていて、もうこんなん絶対ジークフリートは惚れるしオディールが完全勝利ですしょうがないです、っていう感じになりました。

また、今回、米沢さんについてこんなに表情が良いな、と思ったのは初めてじゃないか、と思うくらい、演技が良かったと思います。オディールもとても良かったですが、オデットの時の演技が切なくて…特に4幕の王子がオディールに愛を誓ってしまったことが分かって涙を流すマイムの所の表情がとても良かったです。ラストの、私は死ぬ、のマイムの所は、悲しみの表情にこちらも泣きそうになりました。まだまだ成長が止まらない様子の米沢唯さん…いったいどこまで行ってしまうんでしょうか…

木下さんのベンノはテキパキと動き、非常にデキる忠臣感ありました。ずっと王子にあれこれ面倒を焼いていて…何?王子のこと大好きなの?って感じでした。ラストの王子を抱えて歩くところも、なんとも言えない沈鬱とした表情で…。パ・ド・トロワの踊りもとても良かったです。新シーズン、より一層一つ一つのパが洗練されていたような気がしました。

1幕見せ場のパ・ド・トロワのクルティザンヌ、この日はW池田ペアでした。

池田理沙子さんは踊りも軽快で良かったですし、クルティザンヌらしいような表情などの役作りが良かったと思います。

池田紗弥さんは入団即ソロ抜擢された方のようですが、ストゥニューとかアチチュードなどの要所のポーズがとても美しく、ポー・ド・ブラも目を惹かれました。今回踊られていたこのパ・ド・トロワのヴァリエーションがとても合っているような気がしました。ただ、ちょっと跳躍がパワーレスに見えました。特に木下さんと池田さんとのユニゾン部分はやや見劣り。今後に大いに期待です。

貝川さんのロットバルトは3幕のパーティーシーンの恰好が怪しくて不気味で個人的に非常に好きでした。ラストの兜を取られた後も、瞳が大きいからかすごく印象的な表情でした…怖かった。

3幕の王女たちの踊りはどれもこれも非常に難しいのではないかと思います…。特に飯野さんの、あのロットバルトが踊るときによく使用される曲のヴァリエーションはかなりの難易度のような気がします。そこまで悪くなかったんですが、個人的には五月女さんとかに踊ってみていただきたいなと思いました。3人の中では奥田さんが軽快で鮮やかでお見事でした。

白鳥の娘たちの踊りの中では2羽の白鳥を踊っていた寺田さんがとても美しかくて、印象に残りました。

 

指揮はポール・マーフィー氏で、オケの音が明るく感じました。比較的テンポ早めで、勢いのある指揮だったなと思いました。

 

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■ 2021/10/30 18:30 小野さん / 奥村さん

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この回は、もう小野絢子姫のオデットとオディールにぜーんぶ持っていかれました。鑑賞後はずーっとぼーっと絢子姫の踊りを反芻させられたと思います。

オデットは動きの一つ一つが研ぎ澄まされて、もうアラベスクの足をそっと降ろすその動作ひとつすら美しく、かと思えばオディールは全く別人のようで、また、あらゆる場面で表情が違い、極上の笑顔だったかと思えばツンとした表情や怪しげな表情を見せたり、何度かある王子を振りほどく動作が全て違ったり…もう片時も目を離せませんでした。なんとも素晴らしい女優っぷり。オディールの、まるで彼女が音楽そのもののように音楽と一体感のあったヴァリエーションの踊り方はこれまでみたことがなかったかも。ラスト、死のマイムの場面は、悲しみよりは決意を非常に強く感じるような演技だったと思いました。

奥村さんもとても王子感あふれていて演技が良かったです。対等の実力を持つ小野さんがお相手だからか熱演でした。2幕オデットとのパ・ド・ドゥは、踊っている途中でオデットとジークフリート王子が恋に落ちていくドラマが見えた気がしました。王子のヴァリエーションは、少しパが福岡さんと違ったような?軽やかさと、ポーズが相変わらず美しかったです。

ベンノの福田さんは、やや道化寄りの役作りに感じて、家臣感強めと言うか、王子の友人感が薄目だったかもしれません。お酒の瓶を振って、残りを確かめるような細かい演技が個人的には良かったと思いました。パ・ド・トロワのソロは良かったのですが、ややサポートが雑に感じたような…。ラストの王子を抱えるところは今にも泣きだしそうな、嘆きの強い表情でした。

クルティザンヌのお2人と福田さん、奥村さんはとてもバランスが良い4人組に感じました。4人の踊りがとても良かったです。

中家さんのロットバルトは貝川さんより重々しい存在感があるような気がしました。3幕は貝川さんの演技や見た目が個人的にはより好みだったのですが、2幕と4幕は中家さんの方が印象的でした。ラストのカーテンコールで兜をとって、白塗りでお辞儀されていたのがとても面白く…(Instagramに載せられていたお写真、とても面白かったです…)

2羽の白鳥はダイナミックでしたがやや動きが荒く感じました。寺田さんの踊りの方がより好みだったかな。

3幕の王女の踊りは、どの方も良かったと思います。ハンガリー王女の細田さんの首肩周りが美しく、五月女さんのイタリア王女は軽快で細かな動きが軽やかで見事でした。床をかかとで?タップする音が強めだったかも?池田さんのポーランド王女の踊りが特に良かったです。ジャンプにメリハリがありました。ラスト近辺に舞台右奥でスリップして転んでしまったのが残念だったのですが…大変素晴らしかったです。

 

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■ 2021/11/3 14:00 木村さん / 渡邊さん


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千秋楽のこの日、主役を含め全体的なキャストのバランスがとても良かったと思いました。

米沢さん、小野さんの回は、どうしてもこのお2人に全てが持っていかれてしまうのですよね…。

この日は、まぁ複数回の鑑賞で慣れてきたというのもあるかもしれませんが、王子の物語に一層集中でき、さらに色々なキャストにも注目できた気がしました。

この回は、特に渡邊さんが良かったです。演技がいつもより印象的でした。先に言った通り、他のキャストより「王子の物語」により没入できたと思いました。1幕登場からずっと深刻でシリアスな表情で、あらゆる重圧に困惑する様子がよくわかりましたし、3幕はもうオディールに首ったけ、といった様子が良く表現されていたと思いました。喜びに満ち溢れた様子、満面の笑顔からの、絶望の表情がとても印象的でした。また、踊りもこの日は良い感じに力が抜けていて良かったと思いました。3幕のヴァリエーションは、右回転、左回転、右回転と他の方とは回転方向を変えていたような…?1幕も3幕もソロはバランスが取れているというか…決して派手な動きではなく、滑らかな連続性があり、特に脇から腕まで連動している感じがするのが良かったです。ただ、たまーにですが、無駄足を踏んでいるような時が見受けられるんですよね。ぜひそれが無くなればいいなと思います…

木村さんは、見た中では一番人間らしさを感じるオデットだったと思います。ちょっと足の動きが荒いというか生き生きとしているというか…?踊りに繊細さはなかったかもしれませんが、彼女たち、もとはみんなお姫様という設定らしいので、それはそれで役作りだったのかな。オデット登場、ヴァリエーションの時には、他に見たオデットはしていなかったと思うのですが、細かく鳥のように首を振る動きを彼女だけ入れていたように思いました。白鳥に変えられてしまった嘆きというのが強い印象のオデットだったと思います。オディールは、王子を誘惑する様子はありつつも高貴なお姫様感が一番あったと思いました。フェッテも今回は無理なくダブルまでで、余裕があったのが良かったです。

お2人のパ・ド・ドゥはさすが、組む機会が多いペアですし、息もあっていたなと思います。リフトが高くて迫力がありました。渡邊さんと木村さんの2人が並ぶと本当に目の保養です…

他のキャストは、別日に見たキャストとあまり変更はなかったのですが、木下さんのベンノは、踊りにより一層動きが大きく安定感があったなぁと思いました。クルティザンヌのW池田ペアも、前に見た時よりも踊りを修正したような…。2人の踊りのバランスがより取れて、パ・ド・トロワ全体としての一体感も増していたと思いました。

あとは、3幕のポーランド王女のヴァリエーションの飯野さんの踊りは、見た中ではこの回がより良かったと思いました。

 

千秋楽公演の指揮は富田さん。

2幕はややテンポ遅めで、かなり踊りに合わせて指揮を振ってくださっているのかな?という印象。ナポリの踊りの曲は最初すごく遅く、ラストは非常にアップテンポで、よく踊りがついていけるなぁというくらいで、そこが個人的にはすごく良かったです。

 

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何度見ても飽きることがなく…本当に素晴らしい公演でした。

またすぐにでも再演をしてくれるのではないかと期待しております。