本国から許可が下りず、早々に中止決定となったシュツットガルト・バレエ団の来日公演でしたが、バレエ団としては来日ができないから全幕公演はできないけど、数名のダンサーだけでガラ公演をすることになったという、個人的には「それはいいんだ!!?」となった公演を観てきました。
いえ、もうどんな形であろうと、この状況で来てくださって本当にありがたいです。結局10人程も来日してくださったのではないでしょうか。
しかも、ロシア情勢により航空便が迂回をせねばならず、大変に時間がかかっての来日だったようで…本当にありがとうございました。
しかし…会場について「オネーギンのパ・ド・ドゥ」が上演予定から消えていたのは大変にショックでした…2021年のWorld Ballet dayで、シュツットガルトはバデネスとフォーゲルのオネーギンの鏡のパ・ド・ドゥの練習を見せてくれて、それがもう、すごくすごく良くて、そこだけでもいいから見たかったのですが…
芸術監督の強い意向、という理由ではありましたが、まぁ、最初からフォーゲル氏に毎日オネーギンとかマイヤリングのパ・ド・ドゥにボレロなんてとんでもない構成だったわけです…
でも、こちらも相当演目を吟味して見に行く日程を選んでいたので、もう少し事前にすり合わせしていただけなかったでしょうか。。
キャスト
「ホルベアの時代」より
振付:ジョン・クランコ
音楽:エドヴァルド・グリーグ
アグネス・スー、マルティ・フェルナンデス・パイシャ
グリーグのホルベルク組曲はとても好きな曲で、個人的に前奏曲はオープニング感がすごくある曲だと思っていまして、最初の演目にうってつけだったと思いました。(今回の公演は音源が録音だけど生演奏だったらよかったなぁ)
アグネス・スーの足やスタイルが美しくて見とれてしまいました。水色と青と白のグラデーションの衣装も爽やか。あと、フェルナンデス・パイシャのソロが軽やかでよかったです。
前奏曲とアリアとリゴドン部分が使用されていたと思うのですが、ラストのリゴドン部分の、かかとをパタパタ上げたり下げたりする振り付けがなんだか面白かったです。
「椿姫」より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:フレデリック・ショパン
エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア
ピアノ:菊池洋子
オネーギンに代わって上演になった演目。イマイチでした…。
エリサ・バデネスとデヴィッド・ムーアとの間にドラマを感じられず、ちょっと白けてしまいました。バデネスは踊りも演技が良かったので、それが救い。
「ソロ」
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
ヘンリック・エリクソン、アレッサンドロ・ジャクイント、マッテオ・ミッチーニ
かなり良かったです。ずっと膝を曲げている状態で動き回るような振り付けだったと思います。太ももを手でたたく動作も特徴的に思いました。
3人が次々とかわるがわるに出てくるのですが、まるで分身しているような感じに見えました。
「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ロシオ・アレマン、マルティ・フェルナンデス・パイシャ
クランコ版ロミジュリは、5月に東京バレエ団が上演予定で、もうチケットは取っているので楽しみにしていおり、本家でちょっとネタバレーって感じでしょうか。
バルコニーのセットがクランコ版用じゃなかったと思います。階段がついていて懸垂できないやつ。5月までにはセット、間に合いますよね…?
ロシオ・アレマンはとってもかわいかったし、2人とも若くて勢いにあふれていたなと思うのですが、印象が薄目です。2人はとも踊りはそれぞれいいのだけれど、2人の間の物語が感じられなかった気がしました。
「白鳥の湖」より黒鳥のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ(マリウス・プティパに基づく)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
エリサ・バデネス、デヴィッド・ムーア
バデネスの黒鳥は2021年の世界バレエフェスのBプロでムンタギロフと組んで踊ったのがイマイチで…この演目はあまり期待していなかったのですが、今回は王子をうかがう目つきとか、仕草とか、演技も踊りもすごく良かったです。世界バレエフェスの時はクランコ版じゃなかったのかもしれないので、踊り慣れているバージョンだとやっぱり生き生きとするのかなぁと思いました。
クランコ版の白鳥は見たことがなくて、(若干、曲があっているか自信がありませんが、)チャイパドの男性ヴァリエーションの曲で男性ソロが、普通男性ソロの曲で使用される曲で女性ヴァリエーションが踊られており、よく観る版の選曲とは違って面白かったです。
「Ssss...」よりソロ
振付:エドワード・クルグ
音楽:フレデリック・ショパン
マッテオ・ミッチーニ
ピアノ:菊池洋子
割と良かったと思います。ショパンのノクターンに合わせた振り付けが、あっているかと言うと個人的にはそうでもないなと感じていて、作品としてはあまり印象に残っていないのですが、ダンサーの身体のラインや表現力が良かったと思います。
この辺りで、このカンパニーはクラシックよりコンテンポラリーの方に力を入れているのかなぁ、とすごく思いました。
「コンチェルト」
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ドミートリイ・ショスタコーヴィッチ
アグネス・スー、クリーメンス・フルーリッヒ
沈む夕日(か、昇る朝日?)のような背景に、オレンジ色のグラデーションの衣装。この演目、前にも見たことがあったと思うのですが、どうしても眠くなってしまうんですよね…
ダンサー2人の身体のスタイルや踊りやポーズの美しさは感じましたが、これもあまり印象は残りませんでした。
「スペル・オン・ユー」
振付:マルコ・ゲッケ
音楽:ニーナ・シモン
マッケンジー・ブラウン、ヘンリック・エリクソン、マッテオ・ミッチーニ、アレッサンドロ・ジャクイント
とっても良かった! マルコ・ゲッケ振り付け作品、楽しみにしており、ダンサーも動ける若手勢揃いで、ローザンヌ1位、コンテンポラリーが得意であろうマッケンジー・ブラウンも出演しており、期待通り、とても良かったです。
腕の肘から先を回すというか、ぶらぶら動かすような動きがとても特徴的。どうしてこんなにも音楽との一体感が感じられるのだろうかと不思議に思いました。
男性は上半身が裸で、ダンサーの肉体美が衣装、といった見た目も印象的でした。
「うたかたの恋」より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:フランツ・リスト/ジョン・ランチベリー
エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
とてもよかったです。どうにかして全幕を上演していただきたかったなぁ、と強く思いました。
フォーゲル、踊りはとてもよかったのですが、彼のルドルフはあっさりしているというか、深い闇があまり感じられないのがちょっと残念。バデネスはこの役にとても合っていたと思うだけに、もうちょっと物語を感じられるとよかったのですが。
そもそもガラで踊る演目ではあんまりないと思いますし、一部分だけではなんとも言えませんから、全幕で判断したいところであり…尚更全幕での上演が待たれます…!
「ボレロ」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:モーリス・ラヴェル
フリーデマン・フォーゲル
東京バレエ団
今回の呼び水的演目でしたが、良かったです。気が付いたら泣いてしまいました。
まずはフォーゲルの肉体美が素晴らしかったですね…。照明で徐々にあらわになっていく彫刻のような肉体が、1人、赤い台の上で踊る様子は見とれる程美しい。
フォーゲルのボレロは、これまで見てきたダンサー達のベジャール・ボレロとはちょっと解釈が違う踊り方をしている感じがしました。なんというか、こんなに明るいボレロは見たことがなかったと思います。
この作品は大抵、エネルギーを内向きに制御しながら踊っているダンサーが多い印象だったのですが、フォーゲルのボレロは最初から最後まで外向きでエネルギーを放出しまくっている感じ。本人もだんだん笑いながら踊っていて、恍惚・トランス状態といった感じだったかなと…
いやー凄かった。こんな解釈もあるんだなぁ、と思いました。
ボレロよりは全幕作品を見たかった、と思わなくなかったのですが、彼のこのボレロも見られて、とても良かったと思いました。
あと、上野水香さんのボレロを見た時も思ったのですが、東京バレエ団のリズムが相変わらず良かったと思います。メロディと混ざり合った一体感。素晴らしかったです。
カーテンコールでは芸術監督のタマシュ・デートリッヒ氏も舞台上に上がり、背景に文字が投影されて、次回のフル・カンパニーでの来日に関して言及してくれていました。
次の彼らの来日を、そして全幕公演を楽しみにしています。
あと、ボレロの赤い台の上にフォーゲルと東京バレエ団のリズムの皆さんが乗っていたのが面白かったです。(イナバ物置のCMを思い出しちゃったけど…)
ホワイエの様子