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ju-hachi

2020/7/20 舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパーティー~』 感想

渋谷、シアター・コクーン安田顕さん主演の舞台、ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパーティー~を見てきました。

 

抽選当選→座席数を減らすコロナ対策のため全席払い戻し→再販売抽選→落選→一般販売席入手、と、大変な経過を経て鑑賞にこぎつけました。

 

実に半年ぶりの生の舞台鑑賞で、感慨深い舞台となりました。

 

観劇自体にいろいろと不安もありましたが、やはり劇場に向かうときからワクワクしていて、上演開始時はうっすら涙が出てしまいました。

 

Poster

 

キャスト

安田顕:マイケル

馬場徹:ドナルド

川久保拓司:ハンク

富田健太郎:カウボーイ

浅利陽介:エモリー

太田基裕:ラリー

渡部豪太:バーナード

大谷亮平:アラン

鈴木浩介:ハロルド

 

劇場のコロナ対策に関して記録しておきます。(個人的にそう思っただけで、対策で無いものも含んでいるかもしれません。)

 

・入場時には赤外線サーモグラフィーによる表体温スクリーニング、手指消毒、マットで靴の汚れを落とす(結構しっかりとゴシゴシしなければならず、隣で「もっとゴシゴシしていただけますか…?」と言われていた方も…)

・チケット半券に名前・電話番号を記入しておき、係員の確認後、自分でもぎってボックスに入れる

・チケット確認等の係員はマスク・手袋・フェイスシールド着用

・休憩なし

・観客マスク着用必須、前方3列の観客はフェイスシールドが配布され、着用必須

・お手洗い、各個室の扉に感染防止のために蓋をしめてから流すよう促す注意書き、お手洗い出口にも靴をゴシゴシするためのマットあり

・席は少なくとも一席間隔

・会場内で会話は控えるよう呼びかけ

・プレゼント、出待ち禁止

・キャップ付きの水のみ飲食可

・上演前後、舞台背景部分の搬入口?駐車場につながっている扉が完全開放(「車が来ます、ご注意ください」とか聞こえてきました。舞台が始まるとすぐに音もなくそっとしまり、舞台が終わるとす全開に。)

・終演後、拍手はやまずとも、再度のカーテンコールなどなし

 

これで座席は1つおきに販売しているなんて、果たして、利益…出るんだろうか…

 

(これは対策なのか、もとからだったのかわからないのですが)休憩が無い舞台にするのは個人的に良いなあ、と思いました。

 

休憩の間に人は動くし、お手洗いは混んで密になるし、しゃべるし、できる限り無いに越したことはないなぁ、と…。

 

 

 

物語の舞台は60年代のニューヨーク、安田顕さん扮するマイケルが、ゲイ仲間のハロルドの誕生日パーティーを開きます。

 

パーティーに集まったのはマイケルを含め7人のゲイ仲間と、ハロルドへのプレゼントとして雇われた男娼ですが、そこに、予期せず大谷亮平さん扮するマイケルの旧友、ストレートのアランが訪れ、彼の存在で徐々にパーティーは不穏な空気になっていく…

 

というストーリーです。

 

1968年初演というのだから、当時は大変に衝撃的な作品だったろうな、と思いました。

 

舞台セットがとてもよくできていて、うまいなぁと思いました。

 

2階建ての舞台で1階正面に出入口、右奥にキッチン、右手前にバーカウンター、真ん中にリビング(ソファーとテーブル)、左側に階段があって2階は寝室とバスルーム、全体が客席からよく見渡せるつくりで、舞台奥のキッチンから1階、2階、階段部分まで余すことなく芝居で使われていました。

 

舞台転換、暗転すらもなく、ひたすら早口の長セリフが続く会話劇です。

 

割と、下ネタとかきわどいセリフも多く、(もしかしてコロナの影響で控えめだったのかもしれないのですが)役者同士の接触も結構ありました。

 

登場人物が9人もいますが全員キャラがとても立っていて個性が強烈で、それぞれ魅力的でした。

 

9人には性的指向以外にもハロルドはユダヤ系、バーナードはアフリカ系、マイケルはカトリック教徒だったりと人種や宗教のバックグラウンドも少しずつ違っています。

 

どの役者もセリフがなくとも、立ち居振る舞いだけでそのキャラクターが分かるようなところに感動しました。

 

舞台後半、マイケルが人生で一番心から愛している人に電話をかけて告白をする、というゲームを始め、序盤のジョークだったり、浅利陽介さんのエモリー(すごく可愛かった…)が絡むシーンでは客席からかなり笑いが起こっていたのですが、この後半からはどんどん深刻になっていって、打って変わって全く笑えません。

 

仲間同士で容赦なく傷つけて、傷つけられていく様子は、さながら地獄絵図でした…

 

 

マイケルはアランが隠れゲイだと確信していて、それを暴くという目的でゲームを仕掛けたようですが、結局その目論見は崩れ去り、逆にマイケル自身が傷ついてしまいます。

 

マイケル自身、ゲイである自分を認めることができず、「隠して」「偽って」いたから、アランへの言葉がブーメランのように自分自身に刺さってしまった、ということなのだと思います。

 

序盤から、マイケルが電話のアラン相手には口調が違ったり、アランがこないと分かれば服装を変えたりといった、「偽っている」シーンを見るのがなんとなくつらくて、いろんなことに対して寛容でない世界で、自分を偽ったり、隠したり、自分を認めることができないまま生きていかなければならなかったりといった「生き辛さ」を目の当たりにするのがいたたまれなかった。

 

この芝居では性的指向が際立って取り上げられましたが、自分が「多数派」じゃなくて、自分(のある部分)が自分でもどうしても受け入れられなくて、偽って、隠して、「生き辛い」と感じる気持ちは、誰しもが味わう可能性がある、とても共感できるものなのではないでしょうか。

 

「君は絶対に、変わらない」そして、「何一つわからない、わかったことはひとつもない」というハロルドのセリフは重たかったです。

 

 

ここまでズタボロに傷つけあっても、ハロルドがマイケルに何事もなかったかのように「明日電話する」という声をかける場面で、何故か自分も救われたような気がしました。

 

とても緻密につくられた筋のお芝居で、生の舞台、本当に楽しかったです。

 

困難な状況下で素晴らしい舞台を上演してくださった関係者の皆さまに心から感謝を。