待ちに待った新国立劇場バレエ団の生公演でした。
緊急事態宣言延長に伴い、チケットも5月末日で50%以上座席が埋まっている公演については販売停止ということで、ほとんどの公演は6月以降取ることができなくなりました。(と言っても、5日と6日はほぼ満席状態でしたが。)
5月中に慌ててチケットを買いたせましたが、気づいて良かった。。
今回の公演も、本当に素晴らしかったです。
少しでも多くの人に見られるべきだったと思いました。チケット販売停止が本当に惜しい。。。
新国バレエ団は、こういうクラシックな演目はもう本当にピッタリですね。
脇のダンサー隅々まで行き届いた、素晴らしいハイクオリティの踊りの数々…すごいものをみてしまいました。
牧阿佐美版のライモンダ、衣装やセットが非常に美しかったです。
踊り自体はほとんどプティパ版と変わらず。
特に3幕の星空の下のような背景セットは秀逸でした。
十字の巨大な旗がとても印象的なプロローグよって、物語が非常に分かりやすくなっていました。
唯一、ジャン・ド・ブリエンヌの肖像画だけ、もう少しなんとかならなかったのかなぁと…もうちょっと、絵の中の彼、かっこよくても良くない…?
それと、私の視力の問題だと思うのですが、紗幕の絵が一体どういう場面なのか3度見てもさっぱりわからなかったです。どうやら、『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』がモチーフらしいです。
※『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』:中世フランス王国の王族ベリー公ジャン1世が作らせた装飾写本(Wikipedia引用)
あと、牧版のアブデラクマン、悪役然とした描き方でないのが好きでした。
キリスト教圏のお姫様のライモンダに熱烈に恋しちゃったイスラム教圏の男、アブデラクマン……ロミ・ジュリじゃないですけど、叶わない恋に燃える彼が個人的にツボ…。
(熱いアプローチ受けてジャンにちゃんと一途でいるのが、ライモンダの良いところなんでしょうけど。)
アブデラクマンのテーマ曲(?)の中東っぽい旋律も好き。
しかし、キャスト表ではアブデラ”ク”マンになっていたけどアブデラ”フ”マンではないか?と思いました。ロシア語の表記でもАбдерахманのようだし…
ライモンダは、作中に登場する数多のヴァリエーションはほとんど知っているものの、全幕を生で見るのは初めてでした。
牧版ライモンダではいろいろとマイルドな表現になっているものの、上演するバレエ団が少数らしいのもうなずける内容かな、と改めて思いました。
音楽もヴァリエーションも、大好きだから、誰か音楽そのままに作り直したりしてくれないだろうか。
※主要人物のアブデラクマンは"サラセン人":中世ヨーロッパ世界でイスラム教徒を指した言葉(Wikipedia引用)。
3幕の結婚式は"ハンガリー風の結婚式"ですが、ハンガリーの踊りを知っている知人から、ハンガリーの踊りは手やら自分の腿やらを叩くらしいと聞きました。チャルダッシュやライモンダの手を叩くヴァリエーションも、そういう要素が踊りに取り入れられているんでしょうかね。
この、手を叩くライモンダのヴァリエーションが、結婚式の踊りの割に物悲しい曲だなぁ、と思っていたのですが、今回全幕を観て、そりゃ、結婚前に自分のために1人人間が亡くなっているから、愉快な音楽で踊ってはいられないか…と思いました。
でも、自分の結婚式にずーっとパドブレし続けるのは実に大変そう。
6月5日のキャスト
学校団体の鑑賞日ということをすっかり忘れてチケットを買いたした日。
この貴重な演目を鑑賞できるなんて、都会の子はなんて恵まれているんだろうと、うらやましく思いました。
でも…若いうちからバレエなどの芸術に触れるのはもちろん非常に良いことだと思うのですが…おふざけでずっと拍手をしまくって遊ぶのは勘弁してほしかった…
上演中は比較的静かに鑑賞していらっしゃったものの、残念でした…。
でも、ライモンダってバレエ初心者に向かない演目だと思うので、学生さんには辛かったでしょう。
回転、跳躍、リフトなどで大技もほとんどないし、ストーリー展開も凝ったものでもないし、絶対に大半は1幕の夢の場で寝るだろうなぁ、と思っていたらやっぱり幕間で寝落ちた話をしている子たちがいました。
この、主に繊細な足捌きを見る踊りの良さは、わかりづらかろう…
この前のコッペリアの方が、きっと学生さんたちが観るには良かったのかもなぁ、と思いました。
それでも、彼らにはぜひこの至高のライモンダを観たという貴重な経験をぜひ大切にして頂きたい所ですね…
米沢さんと福岡さんの組み合わせは、個人的に、ドン・キの3幕を観てみたいと常々思っていた組み合わせなのです。
ライモンダはどうかと思っていましたが、もう素晴らしかったです。もっとこの組み合わせでの踊りを観てみたいです。
2人とも踊りがダイナミックで、あらゆるパの、リフトのすさまじい安定感、その風格たるや、まさに王者と言った感じ。
特に米沢さんの神々しさは筆舌に尽くし難い。特に2幕のヴァリエーション、よくもあんなスローテンポで踊れるなぁと感動しました。この1年で、一人だけ踊りのレベルが上がりすぎているような感じです。すごい。
中家さんのアブデラクマンも良かったです。
長いマントをたなびかせて登場するのがかっこよすぎました。
長身が映えて、中家さんと福岡さんの決闘シーンはすごく見ごたえありました。
あとは、クレメンスの細田さんの踊りが優雅で実に良かったです。腕と背中の柔らかな動きが、この役どころの踊りに本当にピッタリでした。
飯野さんの3幕ヴァリエーションも素敵でした。この方、個人的に最近注目しています。
あと、3幕の男性のパ・ド・カトル!こんなにダンサーの容姿の揃った、1人1人のレベルの高いパ・ド・カトルを日本で見られるなんてもう奇跡!と思いました。
惜しむらくはサラセン人の踊りの部分がきれいにまとまり過ぎる感じだったかな、という所でしょうか。
もうちょっと力強さでも、異国っぽい感じでも、他の踊りと違いが出るとメリハリがついてより良いように思いました。
渡辺与布さんは、こういう踊りがお得意でとてもいいですよね…素敵でした。
(お名前がわからないのですが、サラセン人の踊りの部分、後ろの階段あたりでサラセン人側のガヤガヤしている方の演技がうまいなーと思いました。どなただったんだろう…)
小野さんがこの日だけしか出演されないので、あっという間にチケットが売れてしまった日だったです。
小野さんと奥村さんの組み合わせもよかったです。このお2人、アラベスクがとってもきれいだと思うんですよね。1幕のパ・ド・ドゥで2人そろってアラベスクするシーンの所は惚れ惚れしてしまいました。
小野さんは、個人的には1幕のヴェールのヴァリエーションが良かったのですが、3幕のヴァリエーションの時に、観客側がみんな息止めてる?っと思うくらい集中して小野さんの踊りに見入っていて、舞台のダンサーと観客とが生み出すピーンと張り詰めたような…あんな空気を生み出せる人なんだなということに感動しました。
劇場のこの空気って素晴らしい、と改めて思ったり。
メイン以外のキャストは初日と変わらず、この日も素晴らしかったです。
この日は、初日よりアブデラクマンの日焼け具合が抑え目な気がしました。
個人的なメモとしては、珍しく1幕群舞で動き出しのミスがあったのと、3幕ジャンのソロでオケが吹き間違えてた気がした。
12日のキャスト。
出演者に変更有。
どうしても木村優里さんが見たくてチケット取った日だったけど、速水さんのアブデラクマンも見れたので、本当に取ってよかった。
全体的にはセカンドキャスト感が否めない感じで、要所の群舞すら、どこが爪が甘かったです。(多分、ファーストキャストの出来が良すぎた。)
何といってもこの日は個人的にアブデラクマンが見れて良かった日になりました。
中家さんに比べると、ダークオーラや威厳みたいなものが無くて、良きリーダーと言った感じ。アブデラクマン的かと言われると、うーん…さながら若頭…まぁ、コンラッドかランケデムかな?って雰囲気ではあったんですけど、でも、彼のアブデラクマン、ずーっと、ずーっっとライモンダを見つめていて、サポートはしてもヘンリエッタとクレメンスに目もくれずにいたり、なんか、めちゃくちゃ可愛かったんですよね。応援したくなってしまいました。
演技もよかったです。表情が印象的で、ライモンダへの激しくて熱い執着が感じられました。
踊りは言わずもがな、ダイナミックで安定感さえ感じられて、この日のライモンダは彼のアブデラクマンについて行ってもおかしくなかったと思ったり。(あまりに見た目が武闘派で、正直、決闘でジャンに負けるとは到底思えないアブデラクマンでした…。)
カーテンコールでも彼への拍手は盛大で、観客の期待が大いに感じられましたし、もう、何でもいいから彼に早くたくさん主役踊らせてあげて欲しい。
木村&井澤ペアは真に美男美女で、舞台で2人が並ぶと眩しかったです…。
木村さんは1幕の登場シーンのアチチュードが特に良かったと思いました。足が美しくてアラベスクなどのポーズが映えるなぁと思いました。あと、1幕のヴェールのヴァリエーションの音楽も非常にスローテンポだったけれど、安定していました。ただ、この日はポアントの音がコツコツしていたのがかなり気になりました。2幕のヴァリエーションの、連続シャンジュマンの所が特に。
井澤さんのジャンも王子様感がとても良かったです。2幕のライモンダを助けに登場するシーンなんか、マントも似合っていてまさに王子様!って感じでした。
あと、彼のジャンが一番、ライモンダへの愛が感じられました。
踊りも、3幕のジャンのヴァリエーションがとてもよかったです。
ヘンリエッタとクレメンスの五月女さんと廣川さん、想像していたよりも雰囲気にピッタリ合っていて良かったです。特に、やっぱり五月女さんは踊りが小気味よくて素晴らしかった。
ベランジェとベルナールの浜崎さんと中島さんは、あまりお顔で認識したことの無い方でしたが、浜崎さんはモデルみたいなきれいな方でした。スタイルも抜群。でも、踊りはつま先がちょっと甘かった。これからに期待。中島さんはスタイルも良くて、とてもきれいな踊りをされる方でした。今後はぜひ注目したい。
ワルツファンタジアの第1ヴァリエーションの渡辺さん、足が長くて個人的にはこのヴァリエーションのイメージにピッタリでした。(ただ、五月女さんがこのヴァリエーションを踊っていた時は曲のテンポがずっと遅くて…それを難なく踊っていた五月女さんの足の、テクニックの強さを改めて感じました。)
サラセン人の益田さん、ちょっとよろけてしまったシーンもありましたけど、動きが非常に滑らかでよかったです。足捌きも良かった。
スペイン人の寺田さん、木下さんも良かったです。リフトがすごく勢いがあって、こういうキャラクターダンス系の木下さんの踊りはいつも大変良い。
この日のオケが聞いた中で一番良かったと思いました。夢の場のライモンダのヴァイオリンのソロが最高に美しかったです…。
今回の公演で忘れてはいけないのが久々に戻って来たバクラン氏の指揮でしょう。
アレクサンドル・グラズノフの音楽が、バクラン氏のダンサー顔負けで踊っているような指揮で更にキラキラとしていて素晴らしく、感動もひとしおでした。
カーテンコールで一番の拍手を浴びていたのもバクラン氏とオーケストラでした。
素晴らしいオケと素晴らしいダンサーたち、本当に本当に、このご時世で非常に元気をもらえる、素晴らしい舞台でした。