この公演のチケットは、公演は延期か中止か…とにかく、今年の上演は無いだろうなと思いながら取った記憶があります。
まさか、まさか本当にちゃんと上演されるとは思いませんでした。
この状況でこのような公演が見られるなんて、まさに奇跡だと思います。公演主催者の方々は、大変苦労されたことでしょう…。本当に、ありがとうございます。
しかし、見れて良かったという気持ちはもちろんあるのですが、正直な所、複雑な気持ちです。感染状況が最悪の中、観客が集まること、海外から多数のトップダンサーたちを招致するという危険性、チケットも販売制限で見れなかった方も多かったことでしょう…。何も考えずに、あらゆる人が公演を存分に楽しめる状況が早く来ると良いのですが…。
キャスト
「ゼンツァーノの花祭り」
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
オニール八菜、マチアス・エイマン
公演幕開けを飾る清々しい作品でした。鑑賞前は、特にマチアス・エイマンが踊るのにもう少し良い演目選択がなかったものか、と思っていたのですが、予想していたよりはとても良かったように思いました。
マチアス・エイマンが本当に素晴らしかったです。足捌きが目にくっきりと映るようなクリアさで、上げた足が少しもぶれない…。この人の跳躍は一体どうなっているのだろうか。力みがなく、浮き上がるような跳躍を見ていると泣きそうになりました。あと3倍くらい彼のソロを見ていたかったです。
オニール・八菜は、前回踊りを見た時はジゼルのミルタでしたが、今回の演目ではとても軽やかで別人のようだなぁと思いました。
「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:レオニード・ラヴロフスキー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ
ラヴロフスキー版の、他の版に比べると比較的ゆったりとした踊り。カンパニーは違う2人の組み合わせですけど、あまり違和感がなく、意外に踊りの相性が良いような気がしました。シクリャローフがチャーミングで跳躍がとてもダイナミックでした。スミルノワはシクリャローフとペアになるにはちょっと大人っぽいジュリエットだったけれど、とても可愛かったです。2人とも表現力が素晴らしく、表情も良く、盛り上がりました。
「パーシスタント・パースウェイジョン」
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ
菅井さんの存在感が凄かったです。この夏既に2回目の菅井さんの踊りですが、しなやかな動作の踊りは何度見ても驚きます。トルーシュもそうですが、1つ1つの動作を、それをするのが自然、みたいな涼しい顔でやってのけるんですが、とんでもない動きなんですよね…。ノイマイヤーの新作、とても見ごたえがあって面白かったです。
「オネーギン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ドロテ・ジルベール、フリーデマン・フォーゲル
ユーゴ・マルシャンが入国制限のためAプロに間に合わず、ドロテ・ジルベールとフリーデマン・フォーゲルが踊ることになった、という、こんなのハプニングとガラ公演でもなければ誕生しなかったかもしれないペアのような…。2人ともきっと大変な思いをしたでしょう…。
「鏡のパ・ド・ドゥ」は、凄く難しいリフトばかりで、2人とも踊りとしてはもちろんきっちりこなしていたのですが、若干ひやっとする場面もあったり、ただでさえ物語の抜粋だというのに内容に集中しにくかったです。実に残念でした…。
何度もDVDで見た、フリーデマンが鏡から消えていく様を生で見れたのは個人的にはラッキーでした。
追悼 カルラ・フラッチ、パトリック・デュポン(映像)
過去のバレエフェス出演時の貴重な映像が流れました。カルラ・フラッチは「ラ・シルフィード」の映像で、まさに妖精といった軽やかさ。腕のなんとも言えない柔らかな動きがとても素晴らしかったです。
パトリック・デュポンは「白鳥の湖」の道化と「ドン・キホーテ」のバジルの映像で、超絶技巧に加え、見た人がみんな元気になるような溌剌としたパフォーマンスで、映像終わりには会場の観客みんな拍手していました。
「白鳥の湖」より 第1幕のソロ
振付:パトリス・バール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ダニール・シムキン
良かったです。この顔ぶれの公演で王子のソロを持ってくるとはすごい、と思っていたのですが、跳躍からの着地が微塵もぶれる様子がなく、ターンからのポーズがクリーンすぎてため息でした。フェッテ・アラベスクも美しすぎました。
「ジュエルズ」より "ダイヤモンド"
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
キラキラの衣装の2人が踊りもずっと眩しかったです。アマンディーヌ・アルビッソンが一足一足踏んでいくアンディオールにした足が素晴らしくて、それを見ているだけで満足しました。マチュー・ガニオにはこのパ・ド・ドゥはほとんど見せ場の無い踊りでちょっと残念に思ったのですが、サポートをしているだけでもとても美しくみえました。なんとなく温かみのある踊り見たような。Bプロのロシア組のダイヤモンドを見るのがより一層楽しみになりました。
「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
金子扶生、ワディム・ムンタギロフ
「寝室のパ・ド・ドゥ」。良かったです。さすがロイヤルというか、抜粋なのに物語の重厚さを感じるというか、すぐに引き込まれてしまう説得力のある演技だなぁと思いました。ただ、金子さんは、想像よりは数倍よかったのですが、ワディム・ムンタギロフのデ・グリューが理想のデ・グリューすぎるので、釣り合っていなかった感じが若干しました。この2人ならもうちょっと違う、クラシックな演目でも良かったんじゃないかなぁ。
「ル・パルク」
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
アレッサンドラ・フェリ、マルセロ・ゴメス
アレッサンドラ・フェリ、随分小柄で驚きました。なんだかあまり印象には残りませんでした。マルセロ・ゴメスがもっと活きる演目が見たかったような気がしました。
「海賊」
エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン
ガラではお馴染み、といったこの演目。キム・キミンのパフォーマンスに会場がわいていました。とにかくすごいなぁーっと見ていました。またカンパニーの違う組み合わせでしたが、しかし、こうやってボリショイのダンサーと組み合わせってみると、キム・キミンはマリインスキーのダンサーっぽく見えないような気がしました。もともと、個人的にはなんとなくボリショイっぽい雰囲気を感じていたのですが、より一層。クリサノワは優雅で、特に肘から手先の動きがとても美しかったです。2人ともさすがのパフォーマンスでした。
「スワン・ソング」
振付:ジョルジオ・マディア
音楽:モーリス・ベジャールの声、ヨハン・セバスティアン・バッハ
ジル・ロマン
ジル・ロマンが、薄暗いステージ上に登場し、彼の身振りに合わせて光が動いていくという作品。言葉の洪水のような風景や、人型の影が現われたり、光が星空のようになったり、ラストは呼気のような表現…?ちょっとイマイチ意図がわかっていないのですが、見ていてなんだか悲しいような切ないような気持ちになりました。
「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
シュトゥットガルトのプリンシパル2人が踊るオネーギン、で予想をしていた程、2人の間に突き動かされるような感情が見られなかったのがちょっと残念でしたが、いや、良かったです。ちょっと泣いちゃいました。フリーデマン・フォーゲルは、DVDを何度も見たせいか、自分の中で割と理想のオネーギンになってしまっているのだと思います。なので、彼を見られたのが良かったです。エリサ・バデネスは個人的にあまり好きなタイプのダンサーでなくて、ちょっと違う組み合わせで見たかったかもしれません。
「瀕死の白鳥」
スヴェトラーナ・ザハロワ
急遽参加になったザハロワ。この夏、この状況で2回も彼女の「瀕死の白鳥」を見られるとは。前回前橋で見た時は震えるほどステージに近い席で、超至近距離でザハロワ様を見ていたのですが、今回は引きで鑑賞。遠目に見て、より一層彼女の造形が美しさの塊だと感じました。感想は、前橋で見た時とほぼ変わらず、良いパフォーマンス、というか、この場にこの造形で存在していることがもうこの人に関しては凄いことなんだな、と。
「ライモンダ」
マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ ラントラートフ
ラントラートフのジャン・ド・ブリエンヌ、長いマントで登場していてとてもかっこよかった。ソロは、個人的にはマリインスキーの曲の方が好きなのですが、いやー、良かったですね。アレクサンドロワのソロは、音をならさない踊り方でした。2人ともAプロのラストにふさわしく、非常に素晴らしいパフォーマンスでした。Aプロは総じてロシア組が非常に良かったですね。
ラスト、カーテンコールでは、オネーギン1人に対し、鏡のPDDと手紙のPDD、2人のタチヤーナがいるという、面白いカーテンコールが見られました。
また、会場中を使用して花火のプロジェクションマッピングが映し出されて、ダンサーたちも花火を見上げていました。しばらく花火大会もやってませんからね…
なんだかとてもよかったなぁ、という気持ちもあれば、なんとなくさみしい気持ちにもなりました。
会場の様子。
ユーゴ・マルシャン…実に残念でした…。